「外注費は少ない方がいい」は本当か?

―取適法をきっかけに考える、中小企業の外注政策―

「取適法」をきっかけに、外注先との関係を考える

2026年1月、「取適法(中小受託取引適正化法)」が施行されました。

施行からしばらく経ちましたが、ここ最近、改めて企業間取引をめぐる動きが活発になっています。

9月には、サプライチェーン全体で支払条件の適正化を進めるための要請が行われたほか、価格転嫁に関する緊急調査の結果も公表されました。

さらに、物流分野では取引適正化に向けた監視・連携を強化する動きも始まっています。

法律の詳しい内容についてはここでは触れません。

ただ、こうした動きを見ていると、これから企業にとって、

「外注先とどのような関係をつくっていくのか」

は、これまで以上に大切な経営テーマになってくるように思います。

そこで今回は、もう少し経営そのものの視点から考えてみたいと思います。

そもそも、外注費は少なければ少ないほど良いのでしょうか。

「外注費を減らす=経営改善」なのか

会社の損益計算書を見ると、外注費は費用として出てきます。

そのため、

「外注費をもっと減らせないか」

「外注している仕事を自社でやった方が利益が残るのではないか」

と考えるのは自然なことです。

確かに、外注していた仕事を自社でできれば、その分の外注費は減ります。

しかし、そこで少し立ち止まって考えてみる必要があります。

その仕事を自社でするために、新しい設備を買う必要はないでしょうか。

新しく社員を採用する必要はないでしょうか。

工場や作業スペースを広げる必要はないでしょうか。

そうなると、これまで仕事量に応じて増減していた外注費が、設備費や人件費といった固定的な費用へ変わっていきます。

注文が多いときには問題ありません。

怖いのは、仕事が減ったときです。

外注であれば発注量を調整できても、自社で抱えた設備や人員は、仕事が減ったからといって簡単には減らせません。

外注費だけを見て「高い」「安い」と判断するのではなく、その仕事を自社で抱えることで会社がどのような経営体質になるのか。

そこまで考えて、内製と外注を決める必要があります。

粗利益率が下がっても、外注した方がいい場合がある

もう一つ考えていただきたいのが、「粗利益率」です。

例えば、自社だけで仕事をすると、

  • 売上高:1億円
  • 粗利益率:40%
  • 粗利益:4,000万円

だったとします。

ところが、自社の人員や設備だけでは、これ以上注文を受けることができません。

そこで外注先の力を借りる。

その結果、

  • 売上高:2億円
  • 粗利益率:35%
  • 粗利益:7,000万円

になったとします。

粗利益率だけを見ると、40%から35%へ下がっています。

「収益性が悪くなった」と感じるかもしれません。

しかし、粗利益額は4,000万円から7,000万円へ増えています。

しかも、自社だけでは断っていたかもしれない仕事を受注できるようになります。

ここで考えたいのが、市場占有率、いわゆるシェアです。

自社の粗利益率を守るために受注を断り、その仕事が競合他社へ流れていくのか。

それとも、外部の力を借りながらお客様の注文を受け、市場での自社の占有率を高めていくのか。

会社の置かれている状況によっては、後者を選ぶことも十分に考えられます。

もちろん、粗利益率を下げればいいという話ではありません。

考えたいのは、

「粗利益率を高くすることが、いつでも経営の正解なのだろうか」

ということです。

粗利益率を多少下げてでも粗利益額を増やし、市場占有率を高める。

そうした経営判断が必要な場面もあるのではないでしょうか。

何を自社に残し、何を外に任せるのか

では、外注を増やせばいいのかというと、そう単純でもありません。

外注することには別のリスクもあります。

例えば、自社独自の技術を外注先に出すことで、その技術やノウハウが社外へ出ていく可能性があります。

特に、その技術そのものが自社の競争力になっているのであれば、多少コストがかかっても自社に残した方がよい場合があります。

反対に、季節によって仕事量が大きく変わる商品や、一時的に大量の注文が入る仕事まで、すべて自社の設備と人員で対応しようとするとどうでしょう。

繁忙期に合わせて設備と人を抱えれば、閑散期には設備も人も余ってしまいます。

つまり、内製と外注を考えるときには、単純な原価比較だけでは足りません。

  • 技術を社内に残す必要があるのか
  • 需要の変動は大きいのか
  • 設備投資はいくら必要なのか
  • 固定費はどれだけ増えるのか
  • 品質や納期を自社で管理する必要があるのか
  • 外注することで、どこまで市場を広げられるのか

こうしたことを総合的に考えていく必要があります。

すべてを自社でやる必要はありません。

かといって、何でも外に出せばよいわけでもありません。

「何を外注するのか」を考えることは、裏を返せば、「自社は何を自社の中に残す会社なのか」を決めることでもあります。

外注先を「コスト」ではなく「事業構造」の一部として考える

取適法をはじめ、企業間取引を適正にしていこうという動きが進んでいます。

こうした流れの中で、経営者として考えておきたいのは、外注先をどのような存在として見るのかということではないでしょうか。

「できるだけ安く仕事をしてもらう相手」

と考えるのか。

それとも、

「自社だけではできないことを補い、一緒にお客様の要求に応えていく相手」

と考えるのか。

この違いは、これから大きくなっていくように思います。

人手不足が続く中、すべての仕事を自社の社員だけで抱えていくことには限界があります。

だからこそ、自社の強みとなる技術や、お客様との接点などは社内に残す。

その一方で、外部の力を借りた方がよい仕事については、信頼できる外注先と一緒に仕事をする。

場合によっては、粗利益率が多少下がったとしても、外注先の力を借りて受注を増やし、市場占有率を高めることを優先する。

外注費という一つの勘定科目だけを見ていては、この判断はできません。

自社は何を持つ会社なのか。

何を持たない会社にするのか。

そして、自社だけではできない部分を、誰と一緒につくっていくのか。

取適法をめぐって企業間取引が改めて注目されている今だからこそ、「外注費をいくら減らすか」だけではなく、自社にとっての「外注政策」を一度考えてみる。

それは、自社のこれからの事業構造を考えることにもつながっていくのではないでしょうか。