売上が増えれば「成長」と言えるのか?
―滋賀県「生産性向上支援センター」から考える、一人当たり粗利益―

いま改めて注目される「生産性向上」
2026年度、滋賀県よろず支援拠点内に「生産性向上支援センター」が設置されました。
人手不足が続く中、中小企業・小規模事業者の生産性向上を支援するため、専門家が企業の現場を訪問し、業務プロセスや従業員シフトの可視化、導線やレイアウトの見直し、IoT・AI・ロボットなどを活用した省力化について支援するものです。
最近は「生産性向上」という言葉を耳にする機会が増えました。
AIを導入する。
業務を効率化する。
設備を新しくする。
残業時間を減らす。
もちろん、どれも生産性向上につながる取り組みです。
ただ、経営者として考えてみたいのは、その先です。
自社の生産性が本当に上がったかどうかを、何の数字で判断しているでしょうか。
仕事が楽になった、時間が短くなったということも大切ですが、経営という視点から考えるのであれば、
「会社が一人当たりどれだけの成果を生み出せるようになったのか」
を数字で見ていく必要があります。
売上2億円から3億円。これは成長だろうか

例えば、前期の売上高が2億円、経常利益が1,000万円、社員数が10名だった会社があるとします。
今期、売上高は3億円、経常利益は1,500万円になりました。
売上は1億円増え、利益も500万円増えています。
これだけを見ると、「順調に成長している会社」に見えるのではないでしょうか。
ところが、ここに「社員数」という数字を加えると、見え方が変わってきます。
仮に、3億円の売上をつくるために社員数が10名から18名に増えていたとします。
前期は10名で2億円ですから、
- 一人当たり売上高:2,000万円
- 一人当たり経常利益:100万円
でした。
ところが、18名で3億円になると、
- 一人当たり売上高:約1,667万円
- 一人当たり経常利益:約83万円
まで下がります。
では、同じ売上3億円、経常利益1,500万円を14名で実現した会社ならどうでしょう。
- 一人当たり売上高:約2,143万円
- 一人当たり経常利益:約107万円
になります。
会社全体で見れば、どちらも「売上3億円、経常利益1,500万円」です。
しかし、一人当たりで見ると会社の姿はまったく違います。
私は、ここに「成長」と「膨張」の違いがあると考えています。
会社の規模が大きくなり、売上も利益も増えた。しかし、それ以上の勢いで人や経費が増えているのであれば、本当に会社の力が強くなったと言えるでしょうか。
もちろん、将来の成長を見越して先に人を採用する時期もあります。
そのため、一年だけの数字で良し悪しを判断するものではありません。
それでも、
「会社全体の数字は伸びているけれど、一人当たりではどうなっているのか」
という視点は、経営者が持っておきたいものです。
中小企業だからこそ「一人当たり粗利益」を見てみる

そこで、中小企業の経営者に一つ持っていただきたい数字があります。
「一人当たり粗利益」
です。
計算は難しくありません。
粗利益 ÷ 人数 = 一人当たり粗利益
例えば、20人で年間1億円の粗利益を生み出している会社なら、一人当たり粗利益は500万円です。
翌年、人数は20人のまま、粗利益が1億2,000万円になったとします。
すると、一人当たり粗利益は600万円になります。
一人当たり100万円、会社全体では2,000万円の粗利益が増えたことになります。
一人当たり売上高を見ることにも、もちろん意味があります。
ただ、売上高は仕入や外注費の影響を受けます。
例えば、1億円の商品を仕入れて1億1,000万円で販売する会社と、自社の技術やサービスによって5,000万円を売り上げる会社を、売上高だけで比較することはできません。
そこで、
会社がどれだけの粗利益を生み出し、それを何人でつくっているのかを見る。
中小企業にとって「一人当たり粗利益」は、生産性を考えるうえで非常に分かりやすい数字の一つではないでしょうか。
今年はいくらだったのか。
前年はいくらだったのか。
3年前と比べて増えているのか、減っているのか。
会社全体の売上だけを追っていると気づきにくい変化が、「一人当たり」に直すことで見えてきます。
一人当たり粗利益を上げる方法は、効率化だけではない
ここで気をつけたいのは、
「一人当たり粗利益を上げる=人を減らす」ではない
ということです。
例えば、20人で粗利益1億円の会社があったとします。
一人当たり粗利益を上げようとしたとき、
「では、人を18人に減らそう」
と考えるのではなく、
「20人のままで、どうすれば粗利益を1億円から1億2,000万円にできるだろう?」
と考えてみる。
この問いを持つと、経営の見方が変わってきます。
- 価格を見直せないだろうか
- 粗利益率の高い商品をもっと販売できないだろうか
- 利益の薄い仕事に多くの時間を使っていないだろうか
- 二重入力や転記など、なくせる仕事はないだろうか
- AIやITを使えば短縮できる仕事はないだろうか
- 自社が狙う顧客層そのものを見直す必要はないだろうか
生産性向上というと、「同じ仕事をいかに早くするか」という発想になりがちです。
しかし、経営者が考えるべき生産性向上は、それだけではないと思います。
今いる人たちが、より大きな粗利益を生み出せる会社にしていく。
そう考えると、生産性向上は現場の業務改善だけの話ではありません。
商品、価格、顧客、営業、仕事の進め方、設備投資など、会社の経営そのものを見直す話になってきます。
賃上げを続けられる会社にするために

一人当たり粗利益を考える理由は、もう一つあります。
それが、社員の給与です。
社員の給与を上げたい。
賞与も増やしたい。
教育にもお金を使いたい。
より働きやすい環境もつくりたい。
そう考えている経営者は多いと思います。
しかし、その原資を生み出すのも会社です。
例えば、一人当たりの人件費だけが毎年増えていき、一人当たり粗利益が変わらなければ、その差額は会社の利益を圧迫していきます。
利益が減れば、設備への投資、新しい事業への挑戦、人材教育などに使えるお金も少なくなります。
反対に、一人当たり粗利益が500万円から600万円へ増えれば、その増えた100万円をすべて利益にする必要はありません。
- その一部を給与として社員に還元する
- 一部を設備やAIへの投資に回す
- 一部を会社の利益として残し、次の成長に備える
そうした選択肢が生まれます。
だからこそ、賃上げを考えるときには、
「給与をいくら上げるか」
と同時に、
「一人当たり粗利益をどう上げるか」
も考える。
この二つを一緒に考えていく必要があるのではないでしょうか。
生産性向上という言葉は、少し難しく聞こえます。
けれども、自社の数字に置き換えてみれば、考えることは意外とシンプルです。
自社では、社員一人が年間いくらの粗利益を生み出しているでしょうか。
そして、その数字は3年前と比べて増えているでしょうか。
売上が増えた。
社員が増えた。
会社が大きくなった。
それだけで「成長した」と考えるのではなく、一人ひとりが生み出す粗利益がどう変化しているのかにも目を向けてみる。
そこから、自社が本当に「成長」しているのか、それとも規模だけが「膨張」しているのか、これまでとは少し違った会社の姿が見えてくるのではないでしょうか。

