お客様が本当に欲しいものは何だろう

―「まちゼミ」から考えるお客様目線の経営―

お店の人が「先生」になる、まちゼミ

野洲市など湖南地域では、地域のお店の店主やスタッフが講師となり、専門的な知識やコツを地域の皆さんに伝える「まちゼミ」という取り組みが行われています。

普段は商品やサービスを「売る側」であるお店の人が、この日は「先生」になる。

ここには、商売を考えるうえで大切なヒントがあるように思います。

例えば、魚を扱う人なら、おいしい魚の見分け方。

美容師なら、家庭でできる髪の手入れ。

工務店なら、住まいを長持ちさせるための方法。

毎日その仕事をしている人にとっては、それほど特別な知識ではないかもしれません。

しかし、お客様からすると、

「それを知りたかった」

「一度プロに聞いてみたかった」

という情報だったりします。

考えてみれば、会社が持っている価値は、販売している商品やサービスだけではありません。

長年の仕事で蓄積してきた経験や専門知識、判断する力、失敗してきたからこそ分かること。

まちゼミは、そうした普段は値段をつけていないものにも、お客様にとっての価値があることを教えてくれているように感じます。

自社の「当たり前」は、お客様の「知りたい」かもしれない

これは小売店だけの話ではありません。

例えば製造業なら、

「この材料なら、この加工方法の方がいい」

「この設計では、後々こんな問題が起こりやすい」

といった知識があります。

工務店なら、建物を見ただけで、

「ここはそろそろ修繕した方がいい」

と分かるでしょう。

会計事務所であれば、決算書を見ながら、

「この数字の動きには注意した方がいい」

と感じることがあります。

本人たちにとっては、毎日の仕事の中で身についた当たり前の知識です。

しかし、お客様はその判断ができないからこそ、プロに仕事を依頼しています。

そう考えると、一度、自社の「当たり前」を棚卸ししてみても面白いと思います。

自分たちでは大したことがないと思っていることの中に、お客様が求めている価値はないでしょうか。

ただし、ここで気をつけたいことがあります。

自社が得意だからといって、それをお客様が求めているとは限らないということです。

「売りたいもの」と「買いたいもの」は同じだろうか

実際に会社を見ていると、自社が売りたいものと、お客様が買いたいものが、うまく一致していないケースを見かけます。

「この商品をもっと売りたい」

「このサービスには自信がある」

「この技術は他社には負けない」

会社側には、それぞれの思いがあります。

もちろん、自社の商品や技術に自信を持つことは大切です。

しかし、それがお客様の欲しいものになっているかどうかは、別の話です。

例えば工務店が「高性能な断熱材」を売りたいと思っていても、お客様が本当に欲しいのは断熱材そのものではないかもしれません。

「冬でも暖かく暮らしたい」

「毎月の光熱費を抑えたい」

「家族が快適に暮らせる家にしたい」

そうした暮らしを求めているのではないでしょうか。

会計事務所でも同じです。

私たちは「正確な試算表を早く提供すること」に価値を感じるかもしれません。

しかし経営者が本当に欲しいのは、試算表そのものではなく、

「この利益なら社員の給料を上げても大丈夫だろうか」

「この設備投資をしても資金は回るだろうか」

「今の経営のどこを改善すればいいのだろうか」

といった、経営判断につながる答えなのかもしれません。

自社が売っているものと、お客様が買っている価値。

この二つは、本当に一致しているでしょうか。

まず「お客様は誰なのか」を考えてみる

では、お客様目線になるためには、何を考えればよいのでしょうか。

まず考えたいのが、

「自社のお客様とは、具体的にどんな人なのか」

ということです。

「地域のお客様」「中小企業」「一般消費者」といった大きなくくりだけでは、お客様の顔はなかなか見えてきません。

  • どんなことに困っているのか
  • 何を大切にしているのか
  • 商品を選ぶときに何を基準にしているのか
  • どんなことならお金を払いたいと思うのか
  • 反対に、どんなことには価値を感じていないのか

ここまで考えていくと、同じ商品でも売り方や伝え方が変わってくるはずです。

そして、この答えは会社の会議室の中だけで考えていても、なかなか分かりません。

お客様と話す。

現場を見る。

質問を聞く。

なぜ買ってくれたのかを聞く。

反対に、なぜ選ばれなかったのかを考える。

まちゼミのように直接お客様と接する機会も、お客様が何を知りたいのか、何に興味を持つのかを知る貴重な場になるでしょう。

会社の中だけを見ていても、お客様の要求は見えてきません。

「お客様」「自社」「ライバル」の重なるところを探す

だからといって、お客様が求めていることを何でもやればいいわけでもありません。

ここで考えたいのが、次の三つです。

「お客様が求めていること」

「自社が得意としていること」

「ライバル会社が十分に応えられていないこと」

お客様が求めていても、自社が不得意なことを無理にやれば、なかなか利益にはつながりません。

自社がどれだけ得意でも、お客様が必要としていなければ商売にはなりません。

そして、お客様が求め、自社も得意だけれど、ライバル会社も同じように提供しているのであれば、価格で比較される可能性も高くなります。

だからこそ、

「お客様が求めているけれど、まだ十分に満たされていないところに、自社の得意分野を活かせないだろうか」

と考えてみる。

そこに、その会社だからこそ選ばれる領域が見えてくるのではないでしょうか。

そして、ここには終わりがありません。

お客様の要求は変わります。

ライバル会社も変わります。

自社の強みも、磨き続ければ変わっていきます。

だから経営者は、お客様が何を求めているのかを追い続けなければならないのだと思います。

「自社の商品を、どうすればもっと売れるだろう」

もちろん、それを考えることも必要です。

しかし、その前に一度、問いを変えてみてはいかがでしょうか。

「私たちのお客様は誰で、その人はいま何を求めているのだろう。」

そして、その要求に対して、自社だからこそ応えられることは何なのか。

自社にとっての「当たり前」を一度外から眺め、お客様の声に耳を傾けてみる。

地域のお店が先生になる「まちゼミ」は、そんな商売の原点を改めて考えるきっかけになるのではないでしょうか。