「最低賃金56円アップ」から考える、これからの経営計画

―「足し算の経営」から「事業構造を磨く経営」へ―

1.滋賀県の最低賃金56円アップをどう見るか

滋賀県の最低賃金が、現在の1,080円から1,136円へ、56円引き上げられる見込みとなりました。

「56円上がる」と聞くと、それほど大きな変化には感じないかもしれません。

しかし、割合にすると約5.2%の上昇です。

経営者として考えなければならないのは、「今年、人件費が56円上がる」ということだけではありません。

大切なのは、

この人件費の上昇がこれからも続いていくとしたら、自社の経営はどうなるのか?

ということです。

これまで日本では、物価も賃金も大きく変わらないことを前提に経営を考えることができました。

しかし、物価が上がり、賃金も上がる時代へと、経営環境は変わってきています。

最低賃金の引き上げも、単年度のコストアップとして考えるのではなく、

これからの経営環境の変化として捉える必要があります。

2.この人件費上昇が5年間続いたら?

では、今回と同じ約5.2%の上昇が続くと仮定すると、最低賃金はどうなるでしょうか。

1,136円を起点として単純計算すると、次のようになります。

  • 1年後:約1,195円
  • 2年後:約1,257円
  • 3年後:約1,322円
  • 4年後:約1,391円
  • 5年後:約1,463円

もちろん、実際に毎年5.2%ずつ最低賃金が上昇するとは限りません。

しかし、この数字を見ていただきたい理由は、5年後の最低賃金を予測するためではありません。

「人件費が上がっていくことを前提に、5年後の経営を考えていますか?」

ということです。

日本銀行は、物価安定の目標を2%としています。

仮に物価上昇に合わせて、売上が毎年2%ずつ増え、仕入やその他の経費も2%ずつ上昇する。

一方で、人件費がそれを上回る5%程度で上昇していくとしたらどうでしょう。

売上高だけを見れば、会社は成長しています。

しかし、売上以上のスピードで人件費が増えれば、当然ながら利益は圧迫されます。

「売上が増えている=会社が良くなっている」とは限らない時代になっているのです。

3.「足し算の経営」では利益が残りにくい時代へ

これまでの成長戦略は、比較的シンプルでした。

  • 売上を増やす
  • そのために人を増やす
  • 人が増えたら、さらに売上を増やす

いわば、今の事業の延長線上に、人と売上を「足し算」していく経営です。

もちろん、売上を伸ばすことや、人を採用することが悪いわけではありません。

しかし、人件費をはじめとしたさまざまなコストが継続的に上昇する環境では、

単純な足し算だけでは利益を残しにくくなっていきます

売上は増えた。

社員も増えた。

会社の規模も大きくなった。

ところが、利益は以前と変わらない。あるいは減っている。

そんなことが今後、より起こりやすくなっていくと考えています。

今と同じ商品を、今と同じ顧客に、今と同じ方法で販売し、人を増やしながら売上だけを伸ばしていく。

その延長線上に、本当に5年後、10年後の成長があるのか。

一度立ち止まって考える必要があります。

4.これからは「事業構造を磨く経営」へ

そこで、これから必要になるのが、「足し算の経営」から「事業構造を磨く経営」への転換です。

単純に「もっと売る」「もっと人を増やす」と考えるのではなく、

会社の事業そのものを見直していきます。

例えば、次のような視点です。

  • どの商品・サービスを伸ばすのか
  • どんな顧客層を中心にするのか
  • どの市場・地域で戦うのか
  • どのような営業の仕組みをつくるのか
  • どんな組織をつくるのか
  • どのような財務・資金構造にしていくのか

こうした事業を構成する一つひとつの要素を磨きながら、自社が「勝てる場所」を見つけていく。

すべてのお客様に選ばれる必要はありません。

自社の強みが活きる商品、顧客、市場を明確にし、そこでより高い付加価値を生み出せる会社へ変わっていく。

人を増やすことだけに頼るのではなく、

一人当たりの付加価値を高め、人件費が上昇しても利益を生み出せる事業構造をつくること。

これが、これからの中小企業に求められる経営ではないでしょうか。

5.5年後・10年後から逆算する経営計画を

こうした事業構造の変化は、明日から一気にできるものではありません。

だからこそ、経営計画が必要になります。

経営計画の作成方法はこちら▼▼▼

初心者でも迷わない 未来から逆算する「経営計画」の作り方 | 税理士法人中央総研

前回の記事では、経営計画とは単なる「銀行に提出するための書類」や「売上目標を並べた表」ではなく、社長の頭の中にある未来像や意思決定を、数字と言葉で可視化するも…

経営計画というと、

「5年後の売上はいくらにするか」

「利益はいくらにするか」

といった数字を決めるものだと思われがちです。

しかし、本当に大切なのは、その数字をつくり出す事業構造そのものを考えることです。

例えば、

  • 人件費はどうなっているのか
  • 物価はどうなっているのか
  • 人口や市場はどう変わっているのか
  • 採用環境はどうなっているのか

といった変化を考えていく必要があります。

5年後、10年後の未来を正確に予測することはできません。

それでも、これから起こり得る変化を想定し、

「その環境の中で、自社はどんな会社になっていたいのか」

を決めることはできます。

そして、その未来から逆算して、

  • 商品を変える
  • 顧客層を変える
  • 市場を変える
  • 組織を変える

5年、10年という時間を使いながら、少しずつ事業構造を磨いていくのです。

今回の滋賀県の最低賃金56円アップは、単なる人件費増加のニュースではありません。

経営者にとっては、

「5年後も、今と同じ経営で本当に大丈夫だろうか?」

と考える一つのきっかけではないでしょうか。

人件費が上がってから対応するのではなく、

人件費が上がる未来を前提として、今から会社を変えていく。

「足し算の経営」から「事業構造を磨く経営」へ。

5年後、10年後も安心と希望を持てる会社をつくるために、

今こそ長期的な視点で経営計画を考えていくことが必要です。